危険運転致死傷罪って何?

2019年1月17日

東名高速道路であおり運転の末に1家4人が乗るワゴン車を停車させ、大型トラックによる追突事故で夫婦を死なせた事件の裁判の判決が14日横浜地裁で出されます。この事件では、危険運転致死傷罪の適用が問題となっていますので、それについて研究してみました。

危険運転致死傷罪とは?



出典:IRORIO

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(平成25年法律第86号)の第2条に規定されている罪です。15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処するとされています。(*有期懲役は、刑法上、加重により最高30年)

条文
(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
(酩酊運転致死傷罪)
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
(制御困難運転致死傷罪)
三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
(未熟運転致死傷罪)
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
(妨害運転致死傷罪)
五 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為 (信号無視運転致死傷罪)
六 略

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律って?

もともと危険運転致死傷罪は、刑法の犯罪の一類型(傷害罪ないし傷害致死罪類似の罪)として規定されていました。しかし、飲酒運転や無免許運転のような悪質かつ危険な運転によって、死亡したり重傷を負う事件が後を絶たず、こうした事件の中には刑法の危険運転致死傷罪の要件に該当せず、同罪より軽い自動車運転過失致死傷罪(不注意で起きた過失犯)が適用されていたものもありました。悪質で危険な運転が原因なのに、過失犯として軽く処罰されるというのはおかしいといった指摘があり、自動車の運転による死傷事件に対しては、運転の悪質性や危険性などの実態に応じた処罰ができるよう、刑法から独立する形で、平成25年に法律が整備されました。

なぜ妨害運転致死傷罪が適用できないのか?

ねこさん
なぜ妨害運転致死傷罪が適用できないのですか?

いぬくん
妨害運転致死傷罪は、条文を見てもわかるとおり、「速度で運転する行為」が対象です。故意の割り込みや幅寄せなどでそれによって事故が発生したケースを想定しています

ねこさん
停車した場合は、妨害運転でないってこと?

いぬくん
例えば、妨害車が急停止(原因)⇒被害車も急停止⇒後続の車は急停止できず激突(結果)というケースならば、本罪の対象で問題はないでしょう。高速道路で故意に急停止する運転は、間違いなく危険な速度での運転ですし。

ねこさん
今回の事件は違うのですか?

いぬくん
今回の事件では、停車した状態が約2分存在していて、脅迫まがいの行為がなされて、その間に後ろから来た車が激突する事態となったようです。今回の場合、停車した状態の2分間をどう評価するかで、結論が変わってくるでしょう。

検討

妨害運転致死傷罪は、以下の2つで構成されています。

1 人又は車の通行を妨害する目的で、(目的)
2-1 走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、(行為)
2-2 かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為 (行為)

今回のケースで1の要件を満たしていることは明らかです。2-1、2-2も実際に行われているように思われます。

被告の弁護人は、停車により危険運転は終了しており、その後の事故は、危険運転とは直接に関係性を有しないので、本罪の適用対象ではないという主張です。確かに、物理的に停車した状態での衝突事故ですので、運転行為と事故とは関係がないと主張することはできるでしょう。

しかし、高速道路では、「法令の規定若しくは警察官の命令により、又は危険を防止するため一時停止する場合のほか、停車し、又は駐車してはならない」とされています。(道路交通法第75条の8) したがって、本来停まってはいけない(運転をし続けなければならない)空間で、停車状態であったこと自体、危険運転である(危険運転が継続している)と評価すべきです。「速度で運転する行為」という条文の文言と乖離しますが、一連の危険運転であるという検察の主張もあながち拡大解釈ではないように感じられます。判決は果たしてどうなることでしょう。